製造業DXに向けた生産IoT化 – 最新ツールと事例
あらゆる規模の企業で製造生産プロセスのIoT化が可能となる環境が整いつつあります。各企業は自社に適した導入計画を進める必要がありますが、その際に単なる現場の「カイゼン」としての短期的な効果だけでなく、中長期的な全社システムのキーコンポーネントとしてのビジョンも考慮した計画とすることが競争力向上につながるといえるでしょう。
製造業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現のためには、
「3Dモデルを中心としたエンジニアリングチェーンのデジタル・トランスフォーメーション」
「生産プロセスを含むサプライチェーンのデジタル・トランスフォーメーション」
「上記2つを連携することによる企業活動全体の最適化」
が重要となることは、2020年度版ものづくり白書でも述べられている通りです。
【関連記事】「バーチャル・エンジニアリング環境の遅れは、我が国製造業のアキレス腱となりかねない ものづくり白書」
この中で、生産プロセスのIoT化は以下のような観点で重要なキーコンポーネントのひとつです。
- 「暗黙知」を「形式知」化し、デジタル技術を活用することにより大幅な業務効率化、稼働率向上などが実現
- 高齢化する熟練技術者の技術の見える化により技術継承が可能になる
- 受発注-生産管理-生産-流通・販売-アフターサービスまで含むサプライチェーン・プロセス全体の最適化が可能になる
- たとえば見積、納期の回答を正確かつ短時間で行うことが可能に
- さらにエンジニアリングチェーンとのリンクにより製品開発・生産供給プロセス全体の最適化が可能になる
- たとえば設計段階で生産プロセスがシミュレーションできることで生産期間やコストが検討できるため、柔軟な対応により短期間での最適化が可能になる。
- 海外進出や柔軟な生産計画の実現などダイナミックケーパビリティの向上につながる
- 生産プロセスのサービス化により他社への技術提供など新たなビジネスモデルの構築が可能になる
生産プロセスのIoT化のための新たな環境、ツール、サービスが普及を始めています。これらを効率的に利用することで上記のメリットを実現できるようになる半面、活用できない企業は競争力が低下してゆく可能性があります。
京都セミコンダクターの例
設備の一部を Raspberry Piと各種センサーを組み合わせて IoT 化し、ネットワーク上で稼働状況をモニターする運用を開始しました。
異常検知のメール発信を自動化するなどで、作業者がその場にいなくても装置の稼働状況を確認し、異常を早期に把握することができるシステムです。
センサーデータはネットワーク上のサーバへ自動的に記録されます。そのため、異常発生時やメンテナンス前後に状態が変化した際に当該設備の稼働状況のデータを洗い直すことができ、問題点の把握・対処に今まで熟練者の経験と知識に基づいていた「気づき」を経験の浅い作業者へも共有できるものと期待しています。
不具合の早期発見と稼働状況データの解析により、ダウンタイムを 70%削減、これまで見えていなかった不具合の要因分析、改善のスピード向上や、故障予知等に向けたデータ蓄積も可能となることから、システム全体の投資金額年間 200 万円程度に対し、設備投資抑制により5 年で10億円相当の効果があり、さらに今後コスト低減やAI等の活用による故障予知機能や解析の自動化を行うことで、5 年で5億円の売上増 に匹敵する効果があると期待しています。
【関連記事】製造現場の旧式設備をIoT化、低コストで大きな効果を実現 – 京都セミコンダクター
Amazon Web Services(AWS)の「Amazon Monitron」
Amazon Monitronには、
- 機器の振動や温度データを取得するセンサー (Amazon Monitron Sensors)
- AWSにデータを安全に転送するためのゲートウェイデバイス (Amazon Monitron Gateway)
- 機械学習を利用してデータを分析して異常な機械パターンを検出するMonitronサービス (Amazon Monitron ML-based service)
- デバイスを設定して動作挙動のレポートや機械の故障の可能性を知らせるアラートを受け取るためのコンパニオンモバイルアプリ (Monitron mobile app)
が含まれています。
ユーザーは開発作業や ML の経験がなくても、機器の正常性のモニタリングを数分で開始でき、Amazon フルフィルメントセンターで機器をモニタリングするために使用されているのと同じテクノロジーを使用した予知保全が可能になります。
価格の例として、
5 個のセンサー、1 個のゲートウェ、Amazon Monitron サービス(1年)の合計で 965 USD (約10万5千円 : 初年度) です。
【関連記事】アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、AIを活用して予知保全を可能にするシステムを安価に提供
村田製作所とACCESSの「JIGlet」
村田製作所とACCESSは「スマートものづくり支援ツール “JIGlet” を2021年2月19日より提供開始しています。こちらは
- 作業ランプの点灯・消灯を検知する「照度デバイス」
- ボタンを押して数をカウントする「ボタンデバイス」
- 任意の作業時に操作して時間を記録する「サイコロデバイス」
の3種類のデータ通信SIM内蔵センサーデバイスに加えて
- データ収集と可視化用画面、通知用チャットアプリ
から構成されている、というものです。
例えばセンサーデバイス3台で始めるとすると、初年度は36万6000円、2年目以降は年間12万6000円です。
【プレスリリース】村田製作所とACCESS、幅広い業界のDX化を推進するソリューション開発で協業
THK OMNIedge
THKも機械要素部品にセンサーを取り付け、独自のアルゴリズムによって収集したデータを、安全な通信網を介して数値化、解析することで状態診断、予兆検知を実現するシステム「OMNIedge」を2019年から提供しています。
既に顧客および自社工場で約1000台導入されている、としています。
価格は、1装置 月8000円~ となっています。
Raspberry Piを使ったIoTとは
上述の京都セミコンダクター社の例は「Raspberry Piと各種センサーを組み合わせて IoT 化」となっていますが、具体的にはどのようにして開発するものなのでしょうか。
初心者向けの例が株式会社アムイからの動画として公開されています。
まとめ
以上の通り、あらゆる規模の企業で製造生産プロセスのIoT化が可能となる環境が整いつつあります。各企業は自社に適した導入計画を進める必要がありますが、その際に単なる現場の「カイゼン」としての短期的な効果だけでなく、中長期的な全社システムのキーコンポーネントとしてのビジョンも考慮した計画とすることが競争力向上につながるといえるでしょう。