パナソニックのブルーヨンダー買収 : 本当の意味は
2021 年 4 月 23 日、パナソニックは、サプライチェーン・ソフトウェアの専門企業である Blue Yonder(ブルーヨンダー)の 80%分の株式追加取得を決定した、と発表しました。買収総額は71億米ドル(約7,700億円)と見込んでいます。これにより、2020 年7月取得済の20%株式と合わせ全株式を取得することになります。
ブルーヨンダー買収にこれだけの金額をつぎ込む意味はどこにあるのでしょうか。
プレスリリースの中で、パナソニックは次のように述べています。
『「現場プロセスイノベーション」の進化で、サプライチェーンマネジメント(SCM)分野において、企業のお客様の経営課題を解決するとともに、エネルギーの削減、資源の有効 活用を通じて、地球環境の保全やサスティナブルな社会の実現を目指します。
パナソニックが製造業として長年培ってきたインダストリアルエンジニアリングの技術とノウハウ、エッジデバイスと IoT に、Blue Yonder の AI/ML(機械学習)を活用したソフトウェアプラットフォームを組み合わせることで、ますます複雑になっている 需要・供給の変化をリアルタイムに把握し、ビジネスの意思決定をより正確かつ迅速に実行することが可能となります。』
サプライチェーンマネージメントの重要性
ではなぜ「サプライチェーンマネージメント」はパナソニックにとってそれほど重要なものなのでしょうか。
昨年のものづくり白書の中には次のような指摘があります。
「そもそも製造工程には、大まかに言って、研究開発-製品設計-工程設計―生産などの連鎖である「エンジニアリングチェーン」と、受発注-生産管理-生産-流通・販売-アフターサービスなどの連鎖である「サプライチェーン」がある。製品や生産技術に関するデータは、この2つのチェーンを通って流れ、結びつき、そして付加価値を生み出す。IoTを始めとする最新のデジタル技術は、双方のチェーンの各所において、データの利活用を進める優れたソリューションを提供し、製造業に画期的な革新をもたらす。」(太字は筆者。以下同様)
「サプライチェーンにおいては、工場ごとの繁閑期の平準化などを可能とする「共同受注」、デジタル化により匠の技の継承を容易にする「技能継承」、サプライチェーン連携などによる「物流最適化」、顧客の使用データなどを分析することによる「販売予測」、設備・機器の「予知保全」「遠隔保守」などがある。」
パナソニックは生産現場における「インダストリアルエンジニアリングの技術とノウハウ、エッジデバイス」を持っていますが、これをSCMのソリューションと結びつけることで単に工場内の最適化にとどまらず、受発注や流通、保全などとも結びつけたサプライチェーン全体の最適化につなげることができます。
そしてこのようなシステムの構築が可能になることで、自社のプロセス改革を実現するとともに、顧客に対して「データの利活用を進める優れたソリューションを提供し、製造業に画期的な革新をもたらす」(ものづくり白書)ことが可能になります。これを顧客に対してリカーリングビジネスとして提供することを目指しています。
このことは、個別の製造業の各企業だけでなく、流通やサービス等の取引先企業も含めたエンド・トゥー・エンドの最適化や、スマートシティー全体の最適化等にも広がる可能性が考えられます。対象となる市場は無限に広がります。
Gartner リサーチによると、Blue Yonder は計画系ソリューションである倉庫管理シス テム(Warehouse Management Systems)、輸配送管理システム(Transportation Management Systems)、サプライチェーン計画(Supply Chain Planning Solutions) の 3 カテゴリーにおいて、リーダーの 1 社として位置づけられています。
パナソニックのコメントは
パナソニックはリリースの中で次のように述べています。
『より付加価値の高いサービスを提供するために、ハードウェアの深化、ソリューションビジネスへのシフト、リカーリングビジネスの拡大、そしてソフトウェアによるトランスフォーメーションが喫緊の課題となっています。世界トップクラス SCM ソフトウェアの専門企業で、ソフトウェアビジネスの知見を持つ Blue Yonder の全株式取得で 「現場プロセス事業」の進化をより一層加速させます。』
『両社の融合で目指すのは、あらゆるサプライチェーンの現場から自律的にムダが省かれ、かつ継続的に改善のサイクルが回っていく世界を実現することです。サプライチェーンを構成する現場におけるロスや滞留の徹底的な削減を通じて、現場を抱えるお客様の経営改革に貢献し、さらには限りある地球資源を大切に使うことで、環境課題解決に貢献するとともに現場で働く方々にはゆとりある働き方もお届けしてまいります。』
製造業に必要なもうひとつの柱は
さて、上記ものづくり白書の引用の中にもある通り、製造業革新を考える際にもうひとつ必要となるのはエンジニアリングチェーンの改革と、それをサプライチェーンと連携させることです。パナソニックも製造業の1社として、またソリューションを提供する企業として、この点を無視することはできないでしょう。
現時点でこの面に関してパナソニックの方針は明らかにされていませんが、何らかの方法を検討中である可能性が高いでしょう。
大手PLMサプライヤーやインテグレーター等とのパートナーシップが検討されている可能性も考えられます。
日立製作所も大型買収実施
日本の大手製造業では、日立製作所も自社内の改革とともに、その経験を生かしたソリューションプロバイダーとなることを目指して大規模買収を行っています。
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過去の大型買収ではあまり大きな成果を上げることができていない日本企業ですが、今回はこれらの買収を成長につなげることができるのか、今後の進展が注目されます。
【パナソニックプレスリリース】 世界トップクラスのサプライチェーン・ソフトウェアの専門企業である Blue Yonder の全株式取得を決定