シーメンスが買収するSupplyframeとはどのような会社?
サプライチェーンとエンジニアリングチェーンを結びつける新たな試み
2021年5月17日、シーメンスは、エレクトロニクス業界向けのSaasソリューションを提供しているSupplyframe(サプライフレーム)を7億米ドル(約762億円)で買収する契約を締結しました。
これによりシーメンスは「Supplyframeのノウハウとシーメンスの主要ソフトウェアを統合することで、顧客のイノベーションと製品開発を加速」するとしています。取引の完了は2021年度第4四半期を予定しています。
Supplyframeとはどのような会社?
Supplyframeという会社を簡単にまとめると次のようになるでしょう。
「エレクトロニクス業界に向けたアマゾンのような部品調達、購買用のプラットフォームを提供しているだけでなく、ここで得られたデータを活用し、AIを用いたさまざまなソリューションも提供しているSaaSソリューションベンダー」
電子部品の検索、調達のためのサイト、プラットフォームはすでに数多く存在しますが、Supplyframeはそれら70以上をネットワーク化し、統合された情報を提供します。
そして「1,000万人以上のエンジニアリング、ソーシング、サプライチェーンの専門家が、日々のリサーチや意思決定の過程で、当社のネットワークからの各種情報やSaaSソリューションを利用しています。」(ホームページより)としています。
さらにこのプラットフォームでは「常に最新の、10億を超えるこの市場に向けた部品の情報にアクセスできますが、これにはリアルタイムの在庫状況やリードタイム情報、さらに70万の2D/3Dモデルも含まれます。」
つまり、扱う部品数とユーザー数、アクセス数の大きさ、そしてそれによって得られる情報を利用したさまざまなサービスを提供できる、というのが特徴です。
これにより、ユーザーは企画・開発段階でコストや供給計画を考慮した設計が可能になります。
また、サプライヤーは自社の製品を幅広く拡販するチャンスを得ることができます。
プレスリリース: シーメンス、Supplyframeの買収でデジタル・マーケットプレイス戦略を加速
シーメンスがSupplyframeを買収する意義は
シーメンスはこのソリューションを自社の既存のソリューションと統合することで、企画・開発段階でコストや供給計画を考慮した設計をが可能にする、つまりエンジニアリング・チェーンとサプライチェーンを結びつけるソリューションが可能になります。
つまり、昨年(2020年)のものづくり白書でも指摘されているような、DXの本質である「組織をまたいだプロセスの最適化」を実現するものとなります。これによって、例えば突然の半導体不足に対して設計が迅速に対応する、といったことが可能になります。
バーチャル・エンジニアリング環境の遅れは、我が国製造業のアキレス腱となりかねない ものづくり白書
今年(2021年)のものづくり白書でも『今後も世界的な「不確実性」の高まりが想定される中、自社の被害想定だけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰し、調達先の分散など、多面的なリスク対応を通じてレジリエンスを強化していくことが求められる。』というのがひとつのキーメッセージとなっていますので、まさにこの方向性とも合致しています。
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シーメンスの今後の展開は
シーメンスは今後、このプラットフォームを設計情報と一元化し、ユーザー社内の各部門や取引先をも含めた広範なコラボレーションを可能にするソリューションの提供を推し進めることでしょう。
さらに、電子部品の活用はエレクトロニクス業界ばかりでなく、自動車業界をはじめとするすべての製造業でますますその重要性を増していることから、これらの業界へのソリューションとしても展開される可能性が高いと考えられます。
日本の製造業の対応は
日本の製造業各社の今後の方向性は、大きく3つ考えられます。ひとつは
– 総合インテグレーションメーカーとして、最終製品やサービスを開発し、市場に提供する企業、2番目は、
– それらに対して競争力のある部品を提供する部品メーカー、そして3番目は、
– 上記2者に対してソリューションを提供するソリューションベンダーです。
実際には日本の企業は、このうちの2つ、また大手ベンダーでは3つとも兼ねている場合もあります。
さて、今回のシーメンスの買収を考えた場合、まずインテグレーションメーカーとしては、このソリューションを活用して設計の対応力を上げ、コストを削減することが検討できるでしょう。
部品メーカーとしては、このネットワークに参加することで、自社の製品の販路を拡大できる可能性があります。そのためには、製品の競争力を持つことはもちろん、リアルタイムにコストや納期の情報を提供できる社内の基盤も必要になります。
3番目のソリューションベンダーとしては、このシーメンスのソリューションに対抗できるソリューションを提供する、というのがひとつの方法です。1社では難しい場合、他社とのパートナーシップが必要になります。
それが難しい場合は、シーメンスとのパートナーシップにより、このエコシステムとして活動する可能性も考えられるかもしれません。
日本の製造業の変革は喫緊の課題です。各社とももそれぞれ対応を始めてはいますが、一層の加速が求められています。