現代・起亜自動車、NXとTeamcenterを次世代標準ソリューションに選定 – CATIA, CreoとWindchillをリプレースか

2021年11月29日、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア (以下シーメンス)と現代自動車および起亜自動車(Hyundai KIA Motors : HKMC, 以下、現代・起亜)は、次世代のエンジニアリングと製品データ管理を提供する優先入札者および戦略的パートナーとしてシーメンスを選定した、と発表しました。

これによりシーメンス社のNXソフトウェアとTeamcenterソフトウェアが、既存のソリューションを順次置き換え、現代・起亜自動車の次世代データ管理・設計環境の標準ソリューションとなる、としています。

シーメンス社のプレスリリース「シーメンス、デジタル・モビリティー・ トランスフォーメーションで 韓国の現代 (ヒョンデ) 自動車、起亜 (キア) 自動車と提携」

この発表を受けてエンジニアリング情報サイト engineering.com では、「これにより、CADはCATIAからSiemens NXに、PDMはWindchillからSiemens PLM Suite Teamcenterに変更されます。また、(現在)パワートレインの設計にPTCのCreoを使用していますが、これもNXに置き換えられます。」としています。

プレスリリースで述べられている「提携」の意義

プレスリリースでは「現代・起亜自動車とシーメンスは、生産、購買、パートナーの研究開発など、すべての自動車と関連するプロセスや活動のライフサイクルを考慮した設計手法の確立とカスタムソリューションの開発を共同で行います。」としており、これが単にCADとPLMソフトウェアの置換えということではなく、次世代の統合システムのベースとしての選択であり、全社的に統合されたシステムとしての選択であることを示唆しています。

現代自動車株式会社のR&D部門責任者であるAlbert Bierman氏は「設計とデータ管理プラットフォームの中核にNXソフトウェアとTeamcenterポートフォリオが採用されれば、当社の作業環境は新たな段階を迎えます。」「これが現代自動車にとって大きな変革の始まりであり、重要な変換点となるのは間違いありません。」としています。

専門サイトでの分析は

情報提供サイト engineering.comでは次のように分析しています。

「現代起亜自動車では、CATIAはバージョン1から約40年間使用されていました」が、「今回の決定により、CAD側では3,000から4,000ライセンス、PLMスイートのTeamcenterでは最大10,000ライセンスが含まれる可能性」があり、ビジネスサイズとしては「総額3,000万ドルから4,000万ドルにもなる可能性があります。」

また「CADシステムの入れ替えや、PLM/PDMシステムの入れ替えは、大手自動車メーカーのユーザーの間では珍しいことの一つです。」「しかし、自動車業界がeMobility、プラットフォーム化、オンライン接続、ソフトウェア制御へと変化していることを考えると、この状況は変わるかもしれません。」「もう一つの興味深い傾向は、企業が一般的に、製品開発を製造に近づけ、よりシームレスに接続しようとしていることです。」

その上で、近年の同レベルのリプレースの例として次の3件を挙げています。

  • 2015年頃にダイムラー・メルセデスグループがCATIA V5からシーメンスのNX CADに変更
    • 7,000人以上のCATIAユーザーがシーメンスNXに移管
    • 変更の主な決め手となったのは、ダイムラー・メルセデスが当時比較的新しく開発されたダッソーのV6プラットフォーム「3DEXPERIENCE」に乗り換えたくなかったこと
  • フィアット・クライスラーがクライスラーの買収に伴い、シーメンスNXに集約
    • この案件も、CATIA V5からNX CADへの移行がテーマでした。この時はCADのライセンス数も1,000を超えていました。
  • 直近の大型案件として、先月のトラック・バス・建設機械メーカーのボルボグループにおけるCADの統合
    • ボルボグループもCATIA V5を段階的に廃止していくことになります
    • 今回(の移行先)はPTCとCreoでした。

そしてこれらについて、次のようにまとめています。
「これらのケースを総合すると、自動車メーカーが次世代のCADおよびcPDMソリューションに移行する際に、ダッソー・システムズ、そしてとりわけCATIA V5は大きな敗北者となるようです。とりわけ、ダッソーがアップグレードしたV6プラットフォーム「3DEXPERIENCE」を確立することは難しく、この変化の共通項となっています。」

engineering.comの記事 「Siemens Wins Big: Hyundai KIA Motors Swaps Out CATIA and Windchill In Favor of Siemens Xcelerator」

まとめ

長年にわたりCATIAとPTCのユーザーであった現代・起亜自動車(HKMC)がCADとPDMをはじめとする基幹システムをシーメンスのNXとTeamcenterに置き換えることを発表しました。ダッソーシステムズにとっては先ごろ発表されたボルボグループ(Volvo Group)によるCATIAからPTC Creoへの置き換えの発表に続き、ビジネス上の大きなマイナスとなります。

従来大手企業でのCADの置換えは非常にまれでしたが、近年の自動車業界の大変革や全社的システムとの統合の必要性などを背景として今後はより多くみられるようになる可能性があります。ダッソーシステムズの3DEXPERIENCE戦略についてはその進捗状況に懐疑的な見方もありますが、他の大手自動車メーカーをはじめとする大手製造業各社の今後の動向が引き続き注目されます。

現代・起亜自動車、NXとTeamcenterを次世代標準ソリューションに選定 – CATIA, CreoとWindchillをリプレースか” に対して1件のコメントがあります。

  1. PLM Research より:

    完全な移行には並行利用期間を含め、数年の期間が必要となります。
    2022年7月26日、Dassault Systemesは、プレスリリース “Dassault Systèmes Extends Agreement with Hyundai Motor by Five Years” を発表しましたが、これは単に現行のシステムの利用と保守を5年間延長する、という発表であり、移行期間のソフトウエア利用の契約にすぎない、とengineering.comでは分析しています。
    基本的にCATIAからNXへの移行が進められるという当記事の内容については特に変更はないと考えられています。

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