デンソーがモデルベース開発の基盤をシーメンスに決定?プレスリリースから読み取れるその内容は
シーメンス株式会社およびシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア(以下、シーメンス)は2021年6月24日、株式会社デンソー(以下、デンソー)が、「シーメンスのソフトウェアとサービスを、デンソーの次世代のモデルベース開発(Model Based Development 以下MBD)の技術基盤とし採用していること」を発表しました。
今回の発表は「デンソーのMBD基盤はシーメンス1社に決定され、今後他社の製品は採用されない」というものではなく、「シーメンスの製品をMBDプロセスの一部に活用し、今後もそれを進展させてゆく予定」といった意味であると考えらます。
デンソーはFlothermユーザー
具体的にデンソーが従来から活用し、今後も利用を進めるとみられるシーメンスのソリューションは、Simcenter Flothermです。
FlothermはもともとMentor Graphicsの熱設計専用流体解析ソフトウェアで、電子製品の熱解析に利用されていますが、シーメンスによるMentor graphicsの買収により、Simcenterのファミリーとなりました。デンソーは以前から長期にわたりMentor GraphicsのFlothermのユーザーでした。
IDAJ社のユーザー事例によると、デンソーは同プロダクトにより「モデルベース開発(MBD)による熱設計のフロントローディングを実現」した、としています。
IDAJ社お客様事例「Simcenter Flotherm™を活用してモデルベース開発(MBD)による熱設計のフロントローディングを実現」
この事例で述べられているとおり、このソリューションにより、部門間や取引先とのコミュニケーションを改善するMBDとしての成果を挙げることができた、としています。
また、デンソーはSimcenterAmesimのユーザーでもあることが、シーメンスのWEB情報からわかります。
システムシミュレーションを使用してエンジン駆動システムの設計を最適化
このように、デンソーはMBDのいくつかの分野についてシーメンスのソリューションを活用しています。また、今後はこれらのソリューションの適用を進めてゆくとともに、シーメンスの他のソリューションの検討も進めてゆく可能性もあります。
GT-SUITEなども活用中
一方で、デンソーはシーメンス以外の製品のユーザーでもあり、これをシーメンス製品に置き換えることは、現時点で確認されていません。例えば、GT-SUITEはpower train系でのスタンダードという声もあり、デンソーもこれを利用中です。
最近(2021年6月掲載)のIDAJ社のインタビューでデンソーはこの製品の利用について語っており、この適用を今後とも進めてゆくものと見られます。
「1次元シミュレーションを用いたパワトレシステムの性能評価には、GT-SUITEを長く活用しています。」「ハイブリッド車・電気自動車の駆動、電源システムとその関連製品・・・などのエレクトリフィケーションシステム開発においては、モーターの磁場・熱流体解析をANSYS製品で実施しながら、GT-SUITEの適用も始めています。」
IDAJ社お客様事例 デンソー様「品質向上・効率化だけでなく、SPDMや技術継承における課題解決に向けてIDAJ-MBDソリューションを適用中」
MBD基盤ソフトウェアの海外での状況は
現時点ではどの企業でもMBDの基盤となるsoftwareをひとつのベンダーが提供するものだけで完結させている例はなく、ドメインごとに最適なものを利用しながら、それらをクロスで連携させることを模索しています。
例えば3年前(2018年)の資料ですが、経済産業省の調査報告書にドイツBosch社のクロスドメインシミュレーション事例が掲載されています。
この中ではGT-SUITEのほかにMathWorks社のSimulink, IPG社のCarMakerなどの名前が見られます。
まとめ
今回のプレスリリースに関するデンソーの状況をまとめると、
以上のような状況の中で、シーメンスのソリューションをMBD実現のためのひとつのソリューションとして活用してきているし、今後もパートナーとして重要視し、機能開発の要求などの協力体制も進める。
一方で、シーメンス以外のソリューションについても世界の動向を見ながら、おそらく同様に検証を進めていくと思われる、
となるでしょう。
シーメンス社 プレスリリース(米国および東京発、2021年6月24日)「デンソー、シーメンスのソフトウェアポートフォリオを展開し自動車製品設計のデジタル変革(DX)を推進」