ダッソーシステムズ 2021年第3四半期の業績を発表 – 製造業の変革実現への見通しは
2021年10月28日、ダッソーシステムズ (Dassault Systèmes) は2021年第3四半期の決算を発表しました。
この中で、前年比での成長が強調されていますが、コロナ禍により業績がおもわしくなかった昨年との比較であるという点は考慮する必要があります。
【ダッソーシステムズ プレスリリース】Dassault Systèmes Delivers Strong Third Quarter Growth, Raises Guidance
主力のCATIA, ENOVIA等を含むインダストリアル・イノベーション(Industrial Innovation)は4期平均で見ると前期に続き引き続き回復基調にはあるものの、前年の落ち込みが大きかったため、4四半期平均で見ると2年前のレベルにやっと戻るという状況です。(下図参照)
ソリッドワークス(SOLIDWORKS)を中心としたメインストリーム・イノベーション (Mainstream Innovation software)については、昨年比 13%増でした。1年前も9%増だったので、こちらは堅調に推移しているといえます。
一昨年買収したMEDIDATAとBIOVIAブランドを含むライフサイエンス (Life Sciences software)は昨年比 19%増とこちらも堅調です。
今年の第4四半期の業績予想も発表されていますが、現在とほぼ同じような状況で推移する見通しで、予定している年間目標は達成される見込みです。
インダストリアル・イノベーション 今後の見通し
さて、来年以降の中長期的な視点で今後の業績はどのように予想されるでしょうか。
主力のインダストリアル・イノベーションについて見てゆきたいと思います。
約1年前の2020年11月17日に開催された「Capital Markets Day」で、ダッソーシステムズは2020年から2024年までのソフトウェア売り上げのCAGR(平均年成長率)を約10%と見込んでいる、としています。
この成長率を達成するためには、インダストリアル・イノベーションについても年間約8%程度の成長が必要となります。
2020年についてはコロナによる例外的な状況があったため未達成もやむを得ないとして、今後に関してこの成長は達成できるでしょうか。
ダッソーシステムズの基本的な戦略は、あらゆるインダストリーのバーチャルツインを3DEXPERIENCEプラットフォーム上で実現し、顧客や社会にとって最大の効果を上げることで、自社の売上や利益も拡大させる、というものです。
同社の最大の顧客グループである自動車産業に関して、今回の業績発表の中でルノー社の事例が述べられていますがこれは、まさにダッソーシステムズが目指す世界の実現と言えそうです。具体的には、
- 開発期間短縮や試作数低減、サプライヤー早期連携などエンジニアリングの効率性を大きく向上させる、だけでなく
- クラウド上の3DEXPERIENCEプラットフォームにより、ソフトウェア開発管理、構成管理、コンプライアンスの管理、調達管理など、あらゆる分野をカバーするバーチャルツインを実現し、約20,000名のユーザーをカバーするものになる、
としています。
このルノーの計画について具体的なシステムの内容やスケジュール、ビジネスサイズ等は述べられていませんが、今後明らかになってくることを期待したいと思います。
このような事例が世界の自動車メーカー、さらに他の業種の中でも展開されるようになれば、計画の達成や、さらにそれを上回る成長も可能になるでしょう。
また今回好調だったとされているDELMIA、SIMULIAといった各製品の継続的な拡販やCATIA、ENOVIAを含む安定したメインテナンス収入もあるので、ある程度の成長を続けられる可能性は高いと予想されます。
さて一方で、ダッソーシステムズには逆風となる情報もあります。
2021年9月27日 、PTCとボルボ・グループ(Volvo Group)は、デジタル・エンジニアリングに関する協力関係をさらに強化する計画を発表しました。
同ニュースを報じた記事によると、今回の決定により、同社で現在利用中のCATIAはCREOにすべて置き換えられることになるだろう、とされています。
さらにこの記事では世界の自動車メーカーの状況にも触れ、CATIAユーザーは新バージョンである3DEXPERIENCEへの移行をあまり進めておらず、ダッソーシステムズにとって難しい状況が続いている、とも報じています。
また、これら製造業各企業にとっての今後の重要分野であるIoTやMBDの分野で競合他社から後れを取っているように見えることも否定できまん。
【参考記事】Gartner “Magic Quadrant for Industrial IoT Platforms”
【参考記事】デンソーがモデルベース開発の基盤をシーメンスに決定?
インダストリアル・イノベーションについてはコロナ前の2019年から徐々に売り上げが頭打ちになっていた状況とも合わせ、今後再び以前のような成長軌道に戻ることができるかどうか、今後の動向が注目されます。
これらについては次期以降の業績発表の際に徐々に見通しが明らかになるでしょう。
製造業向けビジネスの動向
製造業各社のDX(デジタル・トランスフォーメーション)は今後も大きな進展が予想され、ビジネスポテンシャルも大きいものと見られています。
今年(2021年)の「ものづくり白書」でも製造業各社は各業務領域に対応するソリューションを適切に活用するとともにデータ連携を進めることが重要、としています。
『製造事業者において、効率的かつ戦略的なDX投資を進めるためには、自社がバリューチェーン上で担っている役割(営業、設計開発、製造・・・)などを的確に把握』した上で、『それぞれのITソリューションが連携し、業務領域間でスムーズなデータ連携が行われることが重要である。』
2021年 ものづくり白書より
【参考記事】ものづくり白書2021 「業務領域間で連携が重要」「ゲームチェンジにつながり得る」
また日本のIT関連各社もこの市場に対し全社的なDXの実現を目指してソリューションの提供を進めています。
日立製作所はエンジニアリング・チェーンとサプライ・チェーンの連携を進めるためにPTCと協業を進めたり、「経営と現場をつなげる」ことを目指してGlobalLogic社を買収しています。
【参考記事】日立、アライアンスプログラムを発表 PTCとも協業で合意、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携を目指す
【参考記事】日立がGlobalLogic買収「経営と現場がリアルタイムでつながることが大きな力に」
パナソニックはサプライ・チェーンのトータルソリューションを提供するためにブルーヨンダーを買収しました。
【参考記事】パナソニックのブルーヨンダー買収 : 本当の意味は
まとめ
ダッソーシステムズは、3DEXPERIENCEカンパニーとして製造業の革新を実現することにより一層の発展をめざしていますが、現時点ではその実現への課題も多いのが実情です。
2019年に巨額の費用を投じて買収したMedidataは今後もビジネスが拡大する可能性があるものの、現在の主力インダストリアル・イノベーション事業との相乗効果は期待できず、主力事業に関連の深いIoTやMBSEの分野ではすでにトップランナーから遅れつつあることもあり、この分野での統合ソリューションとしての競争力を単独で保つことには困難も予想されます。
既存の各ブランド拡販の成果として当面の売り上げの維持やある程度の事業拡大を継続することは可能とみられますが、中長期的に大きく成長する機会を得ることができるかどうかは現時点で判断が難しい状況です。
世界中で急速に進展している製造業のデジタルトランスフォーメーションが、どのような形で進展し、どの企業がITベンダーとして主導権を握るのか、今後も引き続き注視する必要があります。