日本の製造業「デジタル産業化」への道(前編) – DXレポートに見る「低位安定」という現状と将来に向けたビジョン

日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)は遅れているとの指摘は多くみられますが、どこに根本的な問題があり、どのような解決策があるのでしょうか。
経済産業省が取りまとめているDXレポート2(2020年12月)、および2.1(2021年8月)でこれらについて分析されており、ひとつの方向性が示されています。

経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました」

経済産業省「デジタル産業の創出に向けた研究会の報告書『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』を取りまとめました」

「受託開発」の割合が大きい日本企業

レポートでは、IT投資に対する基本的な考え方が競争力を低下させている大きな原因のひとつであるととらえています。

下図を見てわかる通り、日本は米国と比べて受注(受託開発)の割合が大きく、パッケージと自社開発の割合が小さいことがわかります。

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日米のソフトウェアタイプ別投資額構成(2010年1月)

以下、レポートからの引用です。(太字は筆者)

「我が国企業と米国企業を比較すると、我が国企業のシステムは受託開発によってシステムを構築している割合が高い。また、パッケージソフトウェアを利用する場合もカスタマイズが多い。一方、米国ではユーザー企業がパッケージを極力カスタマイズせずに利用し、複数のパッケージを組み合わせることでスピーディに現場に導入することが一般的である。」

「つまり、協調領域についてはパッケージの利用でコストを削減し、その分競争領域に対して自社開発を行うことで競争領域の強化を図っている。」
「日本企業はすべてを受注で行うため、コストをかける割には戦略的なIT投資が実現できていない。」

「企業は、今後のシステムの利用に際し、自社の強みとは関係の薄い協調領域とビジネスの強みである競争領域を識別するとともに、協調領域における IT 投資を効率化・抑制し、生み出した投資余力を競争領域へと割り当てていくことが必要である。」

日本企業の現状は

「しかし、両者(ユーザー企業とベンダー企業)はデジタル時代において必要な能力を獲得できず、デジタル競争を勝ち抜いていくことが困難な「低位安定」の関係に固定されてしまっている。」

ユーザー企業においては「 IT をベンダー企業任せにすることで IT 対応能力が育たない」、さらに「 IT 対応能力不足により IT システムがブラックボックス化」してしまい、結果的にベンダー丸投げの状況から脱することが難しくなっています。

一方ベンダー企業にとって現状は「労働量に対する値付けを行うことで、低リスクのビジネスを実現」できることとなり、個別の受託開発から脱却するためのモチベーションが働きません。

その結果、両者によるWin-Winの関係が構築され、「低位安定」が実現しています。

状況打開のためには – ユーザー企業

企業(ユーザー企業)協調領域については、自前主義を排し、経営トップのリーダーシップの下、業務プロセスの標準化を進めることでSaaSやパッケージソフトウェアを活用し、貴重なIT投資の予算や従事する人材の投入を抑制すべき」

「さらに、IT 投資の効果を高めるために、業界内の他社と協調領域を形成して共通プラットフォーム化することも検討すべきである。」

共通プラットフォームとは、例えば
「特定業界における協調領域をプラットフォーム化した業界プラットフォーム」や、
「特定の地域における社会課題の解決のための地域プラットフォーム等が想定される。」

「こうした共通プラットフォームによって生み出される個社を超えたつながりは、社会課題の迅速な解決と、新たな価値の提供を可能とするため、デジタル社会の重要な基盤となる。」

一方「競争領域を担うITシステムの構築においては、仮説・検証を俊敏に実施するため、アジャイルな開発体制を社内に構築し、市場の変化をとらえながら小規模な開発を繰り返すべき」

社内に開発体制を構築することについては、ローコード開発環境の進展などにより従来よりもハードルが低くなっています。
ローコード開発は製造業DX実現に貢献するのか(その1)

また、高度な技術や特殊な技術が必要な場面では、ITベンダーを技術専門家として活用することも考えられます。

この結果、ユーザー企業は顧客に対して新たな価値を提供する企業となっていくことや、プラットフォームの構築に貢献する企業となる、という可能性も考えられます。
この点については後編でまとめています。

状況打開のためには – ベンダー企業

一方のベンダーについてはつぎのように指摘されています。

「こうしたユーザー企業の変化を起点として、ベンダー企業自身も変革していくことが必要」であり、「現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)から脱却する覚悟を持ち、価値創造型のビジネスを行うという方向性に舵を切るべき」であるとしています。

結果としてベンダー企業はデジタル技術における強みを核としながら

  • 業種・業界におけるデジタルプラットフォームを提供する企業
  • ビジネス展開に必要な様々なリソース(人材、技術、製品・サービス)を提供する企業
  • ベンダー企業という枠を超えた新たな製品・サービスによって直接社会へ価値提案を行う企業

のいずれか、またはこれらを複合したソリューションを提供する会社となることが期待されています。

以上のように、ユーザー、ベンダーそれぞれが新たな「デジタル産業」のプレーヤーとなってゆくことが期待されています。
この「デジタル産業」の姿や、国内外の企業の実例などについて後編で紹介します。


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