日本の製造業「デジタル産業化」への道(後編) – デジタル産業の特色と各企業の現状

「デジタル産業」が実現した各企業の特色はどのようなものでしょうか。また、そこに向けて各企業はどのように対策を進めているでしょうか。

日本の製造業「デジタル産業化」への道(前編) – DXレポートに見る「低位安定」という現状と将来に向けたビジョン

まず、レポートではデジタル産業の姿として、次の5点を挙げています。

  • 課題解決や新たな価値・顧客体験をサービスとして提供する
  • 大量のデータを活用して社会・個人の課題を発見し、リアルタイムに価値提供する
  • インターネットに繫がってサービスを世界規模でスケールする
  • 顧客や他社と相互につながったネットワーク上で価値を提供することで、サービスを環境の変化に伴って常にアップデートし続ける
  • データとデジタル技術を活用し、マルチサイドプラットフォームなどのこれまで実現できなかったビジネスモデルを実現する

「マルチサイドプラットフォーム」とは、「2 つのグループ(例えば、売り手と買い手)を結びつけるもの」であり「例えば、Uber は運転して収入を得たいグループと車で移動したいグループをソフトウェアにより結びつけている。」といったものです。

その結果、デジタル産業は、次のような構造を持ちます。

  • ソフトウェアやインターネットにより、グローバルにスケール可能で労働量によらない特性にあり、資本の大小や中央・地方の別なく、価値創出に参画できる。
  • 市場との対話の中で迅速に変化する必要性や、1社で対応できない多様な価値を結びつける必要性から、固定的ではないネットワーク型の構造となる。

デジタル産業と現在の産業構造はどのような違いはつぎの図であらわされています。

この図にあるように、デジタル産業を構成する企業は、その特色を踏まえて 4 つに類型化できる、としています。

  1. 企業の変革を共に推進するパートナー
  2. DX に必要な技術を提供するパートナー
  3. 共通プラットフォームの提供主体
  4. 新ビジネス・サービスの提供主体

国内外製造業のデジタル産業化への動き

実際に各企業では上記の❶から❹のいずれか、または、いくつかを組み合わせた形で実現に向けた対応が進められています。

ドイツ企業の例

今年のものづくり白書では、すでにこのようなデジタル産業化にむけて進んでいるドイツ企業の例が紹介されています。

『例えばシーメンスは、(中略) 製造現場における無線通信技術の本格活用が進む中でOTとITを相互に融合させた製品やサービスを新たに開発し、それらを実用化して市場に投入、・・・ITとOTの双方の市場を拡大させ、市場のゲームチェンジを招く可能性がある。』

『機械メーカーのボッシュは、・・・国内外に280ある自社工場を全てデジタル化し、そこから得られたデータ収集やデータの解析といったノウハウを他社に提供することを目指しているほか、将来的には、上記のユースケースを産業向けIoT ソリューションとして他の製造事業者に外販することを目指している。』

ものづくり白書2021 「業務領域間で連携が重要」「ゲームチェンジにつながり得る」 – ドイツの先進事例なども紹介

日本企業の例 – 電機大手企業

日本企業ももちろんこのような動きを進めています。ここでは対応が進められているいくつかの例を紹介します。

パナソニックは約7,700億円でブルーヨンダー社を買収して、『サプライチェーンマネジメント(SCM)分野において、企業のお客様の経営課題を解決する。』『製造業として長年培ってきたインダストリアルエンジニアリングの技術とノウハウ、エッジデバイスと IoT に、Blue Yonder の AI/ML(機械学習)を活用したソフトウェアプラットフォームを組み合わせることで、ますます複雑になっている 需要・供給の変化をリアルタイムに把握し、ビジネスの意思決定をより正確かつ迅速に実行すること』を可能にする、としています。パナソニックはこのソリューションを顧客に対してリカーリングビジネスとして提供することを目指しています。

パナソニックのブルーヨンダー買収 : 本当の意味は

日立製作所は、2021年3月31日、約1兆円でデジタルエンジニアリングサービスの米国GlobalLogic社(グローバルロジック)の買収を決定しました。
「経営と現場がリアルタイムでつながることが大きな力になる」「現場情報が経営情報として使われる、経営判断がリアルタイムで現場の機器を変えていく」といった時代になる、として従来の基幹系、受託型を中心としたビジネスから経営課題、社会課題に向けてアジャイル開発による解決も提案できる顧客のパートナーとなることをめざしています。

日立がGlobalLogic買収「経営と現場がリアルタイムでつながることが大きな力に」

日本企業の例 – 自動車部品など

自動車部品、たとえばタイヤメーカーでもセンサーやクラウドを活用して企業やユーザーに新たな価値を提供しています。

ブリヂストンの「Tirematics」は、あらかじめホイールにセットされた専用の内圧警報装置が内圧情報を定期的に計測し、異常があれば、運行管理者等へクラウドを通したモニタリングツールでアラートメールを届ける仕組みです。これにより、タイヤ起因のトラブルを未然に防止し、車両稼働の最大化につなげると共に、タイヤメンテナンスに関する整備の軽労働化や経済性向上にも貢献します。

TOYO TIREは、「AI、デジタル技術を活用し、「走行中の路面情報」と「走行中のタイヤ状態情報」を検知し、リアルタイムで「走行中のタイヤパフォーマンス」を可視化するタイヤセンシング技術を開発した」と発表しています。これにより「カーブでの速度や制動のコントロール、車間距離のコントロールなど」の実施や「適切なメインテナンスの実施」などが可能になるとしています。

横浜ゴムは、センシング機能を搭載したSensorTire(IoTタイヤ)から得られる情報をドライバーや外部の様々な事業者に提供し、地図情報や様々な交通情報(渋滞情報、天候情報)などといったデータと関連付けることで、安全な運行ルートの提案といった新たな付加価値情報を提供し、自動運転車両やMaaSに関連したサービスを提供する会社などの車両運行管理をサポートすることを目指す、としています。

ブリヂストン、TOYO TIREの例 : タイヤのセンサー情報とクラウドを活用してモビリティ運用や制御を最適化 -次世代モビリティ開発の重要な一要素に

横浜ゴム、乗用車用タイヤセンサーの技術開発ビジョン「SensorTire Technology Vision」を発表、MaaS時代に向けたパートナーシップも推進

ミスミは金型用機械部品の製造・販売などを行う会社でしたが、現在は製造業向け加工部品調達プラットフォームmeviy(メヴィー)を提供することで、幅広い製造業の顧客に対し、板金部品・切削加工品・試作加工品・金型部品の3DCADデータをアップロードするだけで即時見積もり、最短1日出荷を可能にするなどデジタルによるイノベーションを実現しています。
これは2019年版のものづくり白書でも紹介されています。この中で同社について「今後は meviy をオープン化し、自社工場での製造に加え、加工業者をネットワーク化する取組も構想し・・・稼働率に余裕のある加工業者に製造を依頼する「製造業のシェアリングエコノミー」の実現も視野に入れている。」とされています。

製造業の部品調達の分野でデジタルトランスフォーメーションを牽引、第四次産業革命下で広がり続けるマスカスタムの顧客ニーズに対応・・・(株)ミスミグループ本社

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