Catena-Xが世界の自動車産業にとって重要となる理由

Catena-Xがカーボンニュートラルや中古部品流通といったGX(Green Transformation =グリーン・トランスフォーメーション)や、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の観点から注目されています。しかしCatena-Xが重要なのは「これらの課題への対応に必要」だから、というだけではなく「将来的により幅広い課題に対応するための世界的基盤になりうるものであるから」である、ということを認識する必要があります。

Catena-Xが必要となった背景

自動車産業は自動車製造会社いわゆるOEMだけではなく、(半導体なども含む)数多くの部品メーカー、材料供給者、販売ネットワーク、リサイクル関連業者、運送業者など、世界中に複雑に張り巡らされたネットワークに支えられて成り立っています。そしてその活動は企業、業種、国や地域をまたいで行われています。

そこでこの自動車業界全体にまたがる課題、例えばGXへの対応や、半導体の供給不足などサプライチェーンなどの問題に迅速、的確に対応するためには、国境や業界の壁を越え、あらゆる規模の企業の枠を超えてリアルタイムでの情報共有を可能とするIT基盤が不可欠となります。

そこで、その対応として欧州特にドイツの自動車産業を中心としてCatena-Xがスタートし、これを基盤として必要なデータを連携させるための世界的なしくみを構築することが試みられています。

Catena-Xはどのようにこれを実現しようとしているのでしょうか。

Catena-Xは従来のしくみとどこがが違うのか

Catena-Xの構築に携わりVolkswagen(フォルクスワーゲン)でHead of Digital Productionを務めるFrank Goller氏は、種々の課題を解決するための業界全体をカバーするシステムの構築について、MONOistのインタビューで次のように答えています。

『自分たちがピラミッドの1番上に行って全て定義しようとしましたが、これはうまくいっていないということに気付きました。』
『データを共有するには、双方にとってWin-Winになるデータを共有する動機やメリットが必要です。Catena-Xでは、自動車メーカーとサプライヤー、モビリティサービスのプロバイダーなどがピラミッドではなく平等なエコシステムを通じてWin-Winな状況をつくっていきたいと考えています。これはこれまでの自動車業界とかなり違うところです。』
『Catena-Xが構築しようとしているのはデータを集めるプラットフォームではなく、信頼できるデータ交換のネットワークです。』

欧州の自動車産業が始めるデータ共有、「Catena-X」とは?(MONOist オートモーティブ インタビュー)

「データスペーステクノロジー」とは

Catena-Xのしくみは「データスペーステクノロジー」をベースにしています。

「データスペース」は多数のシステムに散在する多様なデータを「統合するのではなく共在(co-existence)するもの」として提唱され、近年ドイツを中心に欧州で開発が進められているGaia-Xで採用されており、Catena-Xもこの土台の上に開発されています。

これは「コネクター」を介してデータの受け手と出し手を直接つなぐ分散型の共有なので、「データのオーナーシップは常に自社」にあり「セキュリティーの問題にも対応している」状態でのシステムの構築が可能になります。

またCatena-Xはオープンなしくみなので「ベンダーロックイン」の問題も発生せず、かつ当初からどのような規模の企業でも利用できるということを目標としているので、小規模の企業にも適したソリューションの展開が可能になります。

Catena-Xで想定されているユースケース

Catena-Xの普及により具体的にどのようなことが可能になることが想定されているのでしょうか。
あらゆるビジネスプロセスに対して活用の可能性がありますが、Catena-Xでは現時点で以下のようなUse Caseを想定して開発を進めています。

脱炭素とESGレポーティング (De-Carbonization & ESG Reporting)

車両のエネルギー効率やCO2排出量のデータを収集・分析し、サプライチェーン全体の脱炭素化を推進することを目指しています。また、ESG報告の円滑化を図るために、データの標準化やデータの共有を推進しています。

部品のトレーサビリティー管理 (Traceability of Parts)

自動車部品の原材料調達から製造、販売、廃棄に至るまでの全プロセスにおいて、部品のデータを収集・追跡し、部品の品質や安全性を向上させることを目指しています。また、部品のトレーサビリティを向上させることにより、リサイクルやリユースの促進にもつながることが期待されています。

循環性管理と製品パスポート (Circularity & Product Passport)

製品パスポートでは、製品の原材料、製造プロセス、使用寿命、廃棄方法などの情報を一元的に管理します。これらの情報を共有することで、企業は製品の循環性向上に取り組むことができます。

継続的品質管理と根本原因分析 (Live Quality Loops & Root Cause Analysis)

リアルタイムで品質を監視し、問題の原因を特定することを目的としています。具体的には、車両や部品からのデータを集め、分析することで、品質問題の早期発見や予防につなげることを目的としています。

需要予測と供給能力の管理 (Demand & Capacity Management)

車両の需要や生産能力、部品の在庫状況等のデータを収集・分析し、需要と供給のバランスを最適化することで、生産効率の向上やコスト削減につなげることを目的としています。

製造設備やノウハウをサービスビジネスとして供給 (Manufacturing as a service)

製造設備やノウハウをサービスとして提供したり、逆に他社のサービスを利用することで、製造企業が自社の製造能力を拡張したり、製造コストを削減したりすることを可能にします。開発期間の短縮にもつながります。

モジュラー生産 (Modular Production)

車両をモジュールに分解し、各モジュールを独立して製造することで、生産効率の向上やコスト削減につなげることを目的としています。

そして、以上の各ケースを支える基本的なサービスとして

ID データサービスと企業IDの管理 (Master Data Services & unique Company)

製品、部品、サプライヤーなどのマスタデータを一元的に管理します。また、ユニークな会社IDでは、各企業を識別する唯一のIDを割り当てます。これらの取り組みにより、サプライチェーン全体のデータの一貫性と信頼性が向上し、データの共有や分析が可能になります。

日本の企業や団体で必要とされる対応は

Catena-Xは、2021年にBMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンなどドイツの主要自動車メーカーによって設立され、その後、世界各国から160社のメンバーが参加しています。
このCatena-Xに対して、日本の各企業や団体はどのように対応すべきでしょうか。

日本をベースとした企業としても以下の企業がメンバーのリストに含まれています。(2023年6月現在)

  • Asahi Kasei Europe GmbH
  • Denso Automotive Deutschland GmbH
  • ISTOS (DMG森精機の独子会社)
  • Fujitsu Limited
  • NTT Communications Corporation

メンバーはCatena-Xの種々のグループに参画し、その活動に関与することが可能です。
しかしCatena-Xを活用するという目的のためにはメンバーとなる必要があるわけではありません。
実際、日本から上記メンバー以外の企業もさまざまな形で関与しています。

自動車メーカー

日本の自動車OEM各社はCatena-Xのメンバーリストに含まれてはいないものの、初期の段階からプロジェクトに深くかかわっています。
各企業から正式に公開されている情報はありませんが、各社個別に、さらに自動車工業会の活動などを通して対応を進めているものとみられます。

環境対応やサプライチェーン効率化での具体的な対応が近い将来実施される可能性が高いので、各企業にとって対応は必須のものとなるでしょう。

しかしそれだけに限らず、将来的に世界的な協力会社のネットワークを活用した開発の効率化や部品調達等さまざまな活用が考えられます。
単に受け身の立場としてだけでなく、競争力を高めるツールとして活用方法を検討する価値はあるでしょう。

部品メーカー

上記のリストにある通り、すでにメンバーとして参加している企業もあります。
例えばDMG森精機はUse Case「Demand and capacity management 」と「Manufacturing as a Service」の開発プロジェクトに参加しています。

これらのメンバー企業は種々の標準策定やUse Caseの開発に直接影響を与えることが可能です。Catena-Xは常時メンバーを募集しているので、現在メンバーとなっていない企業でも今後新たに参加することができます。

もちろんメンバーとして参加しなくてもCatena-Xを活用することは可能です。

今後、環境対応などで、Catena-Xの利用が取引の前提条件となるような可能性もあるので、それに備えて常に最新情報の収集に努めることは必要だと思われます。

さらに、各企業はビジネスの効率化や国際的なネットワークを活用したビジネスの拡大のために積極的に活用できる可能性もあります。また今後、製品開発もデータを中心として国境をまたいだ国際的サプライヤーネットワークで進められる体制の構築が進むことが予想されるので、そのためのツールとしての活用なども考えられてゆくことでしょう。

いずれにしろ必要なデータ交換を行うためには社内のデータ基盤が整っていることは必須の条件となります。
Catena-Xへの対応に限らず、今後は国際的なビジネスの中でさまざまな形態でのデータ交換が求められることになります。まだ環境が整っていない企業では社内業務のデジタル化を進め、このような状況に備えることが必要でしょう。

国や業界としての対応

日本の経済産業省はGaia-Xの日本版として「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」イニシアティブを立ち上げています。

これがどのようなものになっていくのかは現時点で明確ではありませんが、いずれにしろGaia-XやCatena-Xとも親和性を持つものとはなることが予想されます。

国や業界団体としては、日本の各企業がどのようなスタンスでCatena-Xやウラノスに対応すべきなのか、ガイドが必要です。特定の大企業やシステムベンダーから中立的な組織を設立し、特に中小規模の企業を対象として、最新の情報提供や対応の提案、事例紹介等をWEBやセミナー等を通して行うことができれば、今後の世界の流れから取り残されるようなことを防ぐことができるでしょう。


まとめ

Catena-Xは国際的なGXへの対応のために各自動車関連企業にとって必要なツールとなる可能性があります。
しかしその重要性はそれだけの理由にとどまらず、設計開発なども含む国際ネットワークへの参加の条件となってゆく可能性もあるなど、より広いものになってゆくことも考えられます。

各企業や団体は将来を見据えて対応を進めることが必要です。

参考:Catena-X が語る製造エコシステム変革(日本語)

参考:Catena-X が語る製造エコシステム変革(日本語)

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