10 Breakthrough Technologies 2020 by MITテクノロジーレビュー
重要課題の解決に実際に大きな影響を与えると予想される技術的ブレークスルーの2020年版リストが紹介されています。私たちの生活や仕事の仕方を実際に変えるようなブレークスルーが選ばれています。ここでも医療関連、ITテクノロジー関連、環境問題が取り上げられています。
- ハッキングされないインターネット (Unhackable internet)
- 超個別化医療 (Hyper-personalized medicine)
- デジタルマネー (Digital money)
- アンチエイジング薬 (Anti-aging drugs)
- 人工知能が発見する分子 (AI-discovered molecules)
- 人工衛星メガコンステレーション (Satellite mega-constellations)
- 量子超越性 (Quantum supremacy)
- 小さなAI (Tiny AI)
- 差分プライバシー (Differential privacy)
- 気候変動アトリビューション (Climate change attribution)
ハッキングされないインターネット (Unhackable internet)
量子インターネットはハッキングされることがありません。今後5-6年で実用化され、10年後には世界的な量子ネットワークが完成するだろう、という見方をする専門家もいます。
超個別化医療 (Hyper-personalized medicine)
遺伝子治療薬が短期間で開発できるようになったために、従来非常に治療が難しかった病気に対する治療が可能になります。
すでに実際にこのような治療が実施された例が出ています。
しかし、莫大なコストを誰が負担するのか、といった現実的な問題は残されています。
デジタルマネー (Digital money)
昨年来、Facebookのリブラ発表、中国が独自通貨の開発加速を示唆などのニュースが続いていますが、その後も世界各国の中央銀行や大手の銀行は危機感を持って対応を検討しています。
リブラは世界に金融システムにおける米国の力をより強固なものにする、との懸念や、中国のデジタル人民元の国際的な推進に警戒を強める見方もあります。
アンチエイジング薬 (Anti-aging drugs)
近年、「老化細胞」の研究が進んだことで、それに対応するためのいわゆる「セノリティクス薬」の開発が進んでいます。
これにより、がん、心臓病、認知症など、さまざまな疾患が治療できる可能性があるといわれています。
すでに大規模な臨床試験が米国で開始されており、今年中にも結果が発表される見通しです。
人工知能が発見する分子 (AI-discovered molecules)
新薬を商品化するには、平均約25億ドルの費用がかかるといわれています。その理由の1つは、有望な分子の発見が難しいからです。
機械学習ツールにより、既存の分子やその特性に関する大規模データベースから短期間に低コストで新薬候補を発見できる可能性があります。
昨年からこのような取り組みを行い、動物実験で有望であることが証明された例が出ています。
今後3年から5年で実用化の可能性があるといわれています。
人工衛星メガコンステレーション (Satellite mega-constellations)
数キロから数十キログラム程度の小型衛星を多数打ち上げて、地球規模の衛星システムを構築し、インターネット網やリモートセンシング網を構築するのが人工衛星メガコンステレーションと呼ばれる技術です。
製造や打ち上げのコストが低下したためにより容易に実現できるようになりました。スペースXのロケット「ファルコン9(Falcon 9)」による1ポンド(453グラム)あたりの打ち上げコストは現在1240ドルと言われています。
数千もの衛星が連携することで、地球上で最も貧しく、最も辺鄙な土地に住む人々にもインターネット接続を提供できるようになるかもしれません。
SpaceXは11月23日に16回目のStarlinkミッションの打ち上げを成功させました。この打ち上げでは60機のブロードバンドインターネット衛星を地球低軌道に投入します。この打ち上げでも使用された再利用可能なFalcon 9ブースターは無事、海上ステーションに7回目の帰着を果たしています。
このように実用化が進む一方で、宇宙ゴミの問題を指摘する専門家もいます。
量子超越性 (Quantum supremacy)
Googleによれば、量子コンピューターは世界最高速のスーパーコンピューターが1万年かかる計算問題を3分20秒で解くことができる、としています。
Googleはその実証に成功した、としていますが、これはあくまでも概念実証にすぎません。実用化にはまだ5-10年以上の年月が必要かもしれません。
小さなAI (Tiny AI)
人工知能が過去数年にわたり多くのブレークスルーを遂げてきたことに疑問の余地はありません。しかし一方、研究者はこれが環境への負担が大きいことに気づき始めています。
ある統計によると、グーグルが研究開発した自然言語処理モデル「BERT」は、データのパラメーター数は3億4,000万にも上り、モデルを1回訓練するだけで米国の家庭1世帯が50日間で使う電力が必要となるとされています。
そこで、「小さなAI(Tiny AI)」技術はアルゴリズムを小規模化することで、モデルの大きさを小さくできるだけでなく、計算速度を速めるとともに高水準の正確性も保つことができます。
課題もあります。たとえば、監視システムやディープフェイク動画との闘いが難しくなる可能性があり、差別的なアルゴリズムも急増するかもしれません。こうした潜在的な被害について技術的・政策的抑制を進展させる必要があります。
差分プライバシー (Differential privacy)
差分プライバシーとは、データセット内の個人に関する情報を隠しながら、データセット内のグループのパターンを記述することで、データセットに関する情報を公に共有するためのシステムです。これにより、特定個人のプライバシーを保護しながら、データを統計処理に活用することが可能になります。
すでに利用が始まっていますが、大規模な活用例としては2020年の米国国勢調査が最初のものになる予定です。
気候変動アトリビューション (Climate change attribution)
気候変動の要因分析により、気候変動がどのように天候を悪化させているのか、そして、どのように備えたらよいのかがより明確に理解できるようになります。
気候変動の影響を他の要因との関係から切り離すというこの研究は、地球温暖化が悪化するにつれ、今後どれだけの洪水が起こり、どれほどひどい熱波に襲われるのかなど、私たちがどのような種類のリスクに備える必要があるのかを教えてくれるでしょう。正しく耳を傾ければ、気候変動で影響を受けつつある地球のために都市やインフラをどのように再構築するべきか、理解するのに役立つはずです。