【日本語要約】MITによるアディティブ・マニュファクチャリングの現状分析と今後への指針
(2021/1/26更新)
2020年11月24日、MITの研究(Research Briefs) “Additive Manufacturing: Implications for Technological Change, Workforce Development, and the Product Lifecycle” が発表されています。
これは、MIT Work of the futureのアウトプットのひとつとして公開されたもので、最新の技術動向と将来の見通し、必要となる人材、予想される問題点などが述べられ、政府への提言もまとめられています。
2019年のAM分野の材料とサービスの売上高は118.7億ドルで、成長率は21.2%、また1988年以降、AMシステムの売上高のうち、米国は42.5%を占めている、とされています。
重要な点は、この技術は様々な業種のプロセスを革新し、波及効果が大きい、ということです。
DXによる製造業プロセス革新の重要な要素であることは間違いありません。
以下、この研究の要点をまとめます。
AM技術はプロセス変革への大きな転換点に
まずこの技術の現状について、「試作用の技術」から「量産技術」への大きな変化点に差し掛かっている、という認識があります。
そしてこれは、各インダストリーの設計・製造やサプライチェーンのプロセスを根本から変革する可能性を秘めています。
「AMは何十年も前からプロトタイピングに使用されてきましたが、主流の連続生産プロセスとして変曲点に達しつつあります。AMを採用することで、製品開発の効率、製造の実行、製品のパフォーマンスが向上しています。
これにより、メーカーは、製品がオンデマンドで提供され、個々のユーザーや地域の好みに合わせてカスタマイズされ、世界中に分散した生産施設の相互接続されたネットワークを介して提供されるという未来を思い描くことができます。」
「AM コンポーネントは部品固有の金型を必要としないため、最終的なコンポーネント設計の決定は設計プロセスの後半で行うことができ、金型準備のためのリードタイムはもはや決定要因ではありません。」
「最終製品はプロトタイプと同じプロセスで製造されるので工具を必要とせず、そのためより迅速かつ大量に準備することができます。」
「AMでは、部品を生産するのに必要なのはAMのハードウェアと 3D 形状データだけである(そして重要なことに、部品固有の工具を必要としない)ため、システムが生産する部品の種類に関して本質的に柔軟性があります。
そのため、AMはIndustry4.0の要と考えられており、洗練されたAMシステムを使用して、デジタルデータを安全に確保し、遠隔地からジャストインタイムで生産することができます。
AMシステムは、生産プロセスをリアルタイムで監視し、ユーザーが無駄や失敗を特定して排除できるようなデータと洞察力を提供します。このデータをクローズドループで保持することで、分散生産(様々な場所での完成部品の生産)が可能になり、品質管理を保証しながら、様々な投入材料、機械の能力、その他の障害に適応することができます。」
「設計と製品開発の柔軟性は、アジャイルな製造システムを実現する上で最も重要です。AMシステムを含む柔軟な生産資産は、企業が不確実性の高い時期に迅速に対応し、必要に応じて生産活動を転換することを可能にします。」
これらはCOVID-19感染拡大に際してのさまざまな対応でも活用されました。
各部品の設計自体にも変革をもたらします。つまり
「トポロジーの最適化とジェネレーティブ・ソフトウェアによる計算設計アプローチにより、エンジニアはアプリケーションの機能要件を満たすように調整された形状最適化されたコンポーネントを設計することができます。
同様に、重量を最小限に抑えながらコンポーネントのマクロ構造特性を維持する手段として、格子構造の使用がAMで積極的に検討されてきました。」
これら最先端のテクノロジーについては、欧米での成果が広く知られているのが現状です。
「米国は AM 技術を活用して製造業の競争力を高め、競争力を高めることができる立場にあります。」
技術的制約と専門家の不足への対応
現時点では技術的な制約や専門家の不足といった課題も存在しています。
「AMプロセスは、生産目標を満たすために許容できないほど時間がかかる可能性があります。さらに、一般的に高価なシステムコストのため、機械への多額の設備投資や、それに付随する固定された労働力の一人当たりのコストを、比較的少ない生産品で償却しなければならず、これにより、成形材料のコンポーネントまたはユニット当たりの価格が大幅に上昇します。この比較的高いコストは、大量の製品が必要とされる用途での AM の採用を妨げています。」
「中小企業は、プロセスと製品を大量生産するための適格性を確認するために開発に多額の先行投資を必要とするAMアプリケーションを検討するリスクを必ずしも快く思っていません。」
経験豊富な AM 専門家が不足している現状も、課題を増幅しています。
「業界の急速な発展により、専門家のスキル向上は、1回限りのトレーニング投資ではなく、永続的なニーズとなっている。Thomas-Seale(2018)などが示すように、教育とプロセス知識は、AM生産ワークフローのあらゆる側面をマスターするための前提条件です。」
これらの課題を克服するために、欧米ではすでに様々な技術開発や教育プログラムが進められている、といったこともこの研究の中では紹介されています。
知的財産権の課題
「AMは、3D計測技術と組み合わせて使用することで、部品のリバースエンジニアリングのワークフローを簡素化できる可能性があります。この技術を家庭で使用することについて、行政機関は、メーカーが製造した部品の形状(およびそのデジタル表現)に関わる知的財産権を検討しなければなりません。」
「同様の懸念は、AMの個人的な使用だけでなく、企業のスパイ活動やデジタル戦争に関連した破壊的な目的で技術が使用される可能性のある産業や国家的な使用にも適用されます。」
政府への提言
以上の内容を受けて、政府への提言は以下の通りまとめられています。
- AM の基礎研究から応用商業化までの全領域に投資すること。
- 中小企業がAMの能力と専門知識を開発するための支援を行う。
- すべてのレベルにおいて、質の高い、労働力志向の研修プログラムを準備する。
- AMを支点としたオープンイノベーションへのアプローチを加速する。
- 知的財産権の侵害、偽造、リバースエンジニアリングのリスクを理解し、積極的に対処する。
- デジタル情報の所有権を法制化し、製品の修理に関する消費者と製造者の権利の境界を明確にする。
おわりに
以上、MITの最新研究の概要をまとめました。
過去には日本に後れをとっているとも見られていたアメリカの製造業ですが、明確なビジョンと戦略に基づいて着実に進歩しており、当研究も非常によくまとまったものになっています。
日本でも行政機関や各種団体などにより、明確な長期ビジョンに基づいた整合性のある施策を策定、実現してゆく必要があるでしょう。
このレポートの中では数多くの事例も紹介されています。これらについては以下のリンクよりご確認ください。
アディティブ・マニュファクチャリング : 世界の事例 産業編 – MITレポートより