PLMユーザー事例 – SKFはなぜマルチベンダーを選択したのか

SKFは製品開発にPTCのPLMソリューションを使用しています。しかし一方で、製造・IoT側でシーメンスのソフトウェアを採用しました。SKFの観点ではどのPLMベンダーも単独で本当のend to endソリューションを提供することはできないため、各社のソリューションを接続するプラットフォームを必要としています。

SKFのCTOであるVictoria Van Camp氏のインタビューがengineering.comに掲載されています。
マルチベンダー体制を進める同社の事例は参考になる点が多いので、当記事ではそのエッセンスをまとめています。

Can PLM Developers Really Deliver End-to-End Solutions? SKF’s CTO is Skeptical (PLM開発者は本当にエンドツーエンドのソリューションを提供できますか?SKFのCTOは懐疑的です)

SKFは、世界130カ国で事業を展開する総合機械メーカーであり、ベアリング生産の世界最大手です。
同社には43,000人の従業員がおり、世界中に100の工場があり、2019年の収益は100億ドル近くに達しました。現在、SKFは、関連する技術のアップグレード、自動化された生産プロセスなどを伴うビジネスモデルの改革としてインダストリー4.0アプローチや「サービスとしての製品」のテーマに取り組んでいます。

SKFは製品開発にPTCのPLMソリューションを使用しています。PTCのPLMスイートWindchillは、製品データとcPDmのバックボーンであり、CADソリューションのCreoは主要な3D設計ツールです。しかし一方で、製造・自動化・IoT側でシーメンスのソフトウェアを採用することにしました。
Siemens Digital Industriesのクローズドループ製造コンセプトを「ワールドクラスの製造」イニシアチブの基盤として選択しました。
目指しているのはCreoのPTCのCADソリューション、WindchillのcPDm、「製造のための設計」から始まり、これを製造側のProSteps OpenPDM、Teamcenter/Tecnomatix、OTなどシーメンスの自動化・生産ソリューションを介して生産にリンクさせることです。

システム選定経緯と今後の展望

製造業におけるPLMは、各ステップでリンクされ、製品開発チェーンの次のステップと統合されたソリューションであることが必要です。
そのため、各PLMベンダーは自社のソリューションが顧客の業務をEnd to Endでサポートできることを強調しています。

しかし各ベンダーのEnd to Endサポートは実現していない、というのがSKFの見方です。
Victoria Van Camp氏は「もしチェーンのどこかにリンクが欠けているのであれば、そのソリューションは最初から最後まで(end to end)のサポートではありません。」
「いずれにしても、SKFがカバーすべきすべてのもののコンセプトを実現するために盛り込もうとしているものに比べれば決定的に少ないです。」
「我々は(自身の)ビジネスモデルを持っていますが、それはPLMベンダーが提供できることよりも幅広いエンドツーエンドのソリューションを必要とします。簡単に言えば、彼らは最初から最後まですべてをサポートすることはできません。」

Engineering.comの見解として、SKFは独自のMESシステムをスケールアップしてシーメンスのOpcenterやTeamcenterとの統合に取り組んでいる、としています。

Van Camp氏は「シーメンスもPTCも多くのことを得意としていますが、企業として「エンド・ツー・エンドのソリューション」を持っていると考えるとすると、それは少し間違っていると思います。」「エンドツーエンドを持っていないことに気づくことができれば、一緒に仕事をすることの価値と重要性も理解できるようになります」と説明しています。

「互換性のあるフレームワーク」が必要

Van Camp氏は必要なソリューションを自由に組み合わせられるような環境を望んでいますが、現時点ではそのような状況は実現していません。

「PTCやシーメンスと連携していますが、もう少し協力的であればと思います」
「私がパズルのピースを持ってきて、他の誰かが自分のピースを持ってきて、さらに別のプレイヤーが3つ目のピースを持ってくるという状況に備えていなければなりません。それがPLM開発者や他の人たちが必要としているところです。業界はこれがうまくいくことを望んでおり、互換性のあるフレームワークと、その中でのコラボレーションが成功の鍵となります。(PLMベンダー各社の)名声や領土拡大のための議論は取り除かなければなりません。」

Gartnerの見解

中立的な立場として、コンサルタントはどのように考えているでしょうか。
ガートナーのアナリスト兼副社長であるマーク・ハルパーン氏は、「(この状況を)回避するのは難しい」と述べ、PLMベンダーが現在のレベルを超えて協力することは期待していないと述べています。

しかし、彼らの戦略の中には、部分的にSKFの希望を満たす部分も残っています。
「PLMサプライヤーは、SAPとSiemens、PTCとRockwell Automation、そしておそらくDassault SystèmesとABBといった補完的なパートナーと、より大きなエコシステムを構築しています。」
確かにこれらによりユーザーは、よりEnd to Endに近いソリューションを実現できるかもしれません。
「しかし(ベンダーにとって)基本的な前提は、顧客を改善するために、必ずしも競合他社とではなく、自分たちのためにより大きなフットプリントを構築したいということです。」

ユーザー企業がとるべき戦略

では、ユーザー企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
「私は以前から、ユーザー企業はいずれかのサプライヤーに対してお金を使う前に、オープン性や(そのサプライヤーの)競合他社との協力に高い優先順位を置いている、ということを明確にする必要がある、と言い続けてきました。
エンドユーザーがPLMプロバイダーに対してこれを明確にし、それに応じて行動しない限り、少なくともすでに30年遅々として解決していないSKFのような願望は依然としてそのままになるでしょう。」と彼は付け加えました。

まとめ

以上、engineering.comの記事のサマリーでした。
製造業の設計開発・生産システムのデジタル・トランスフォーメーション、すなわちバーチャルエンジニアリングの実現に標準化は必須の流れです。
記事中でも触れられている通り、PLMベンダーはさまざまな買収や開発、パートナーシップを進めていますが、一方で、さらに加速し、広がり続ける顧客のDXの要望に追いつくことは難しいと思われます。

各ユーザー企業は上記の記事にもある通り、ベンダーに対してオープン化への要求を続けることが必要でしょう。
また、ローコード開発などの手法により、ある程度自社内でシステムを連携させる能力を持つことも考えられます。
業界団体や標準化団体は企業の競争領域ではない部分での標準化を進める必要があります。
また、PLMベンダーは長期的な視野に立ち、顧客のオープン化への要望を満たすことが、結局は事業の発展にもつながるものと思われます。

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