製造現場の旧式設備をIoT化、低コストで大きな効果を実現 – 京都セミコンダクター
Industry 4.0などを契機に世界でIoT適用の成功事例が報告されています。
従来は優秀なスキルを持った人手に頼ることも多かった日本の現場でも、熟練技術者の高齢化といった背景もあり、中小規模の企業でも、低コストで大きな成果が期待できる新たな仕組みの導入が進んでいます。
当事例ではトヨタ生産方式(TPS)にも通じるダウンタイムの大幅削減、設備の有効活用、作業者の有効活用など、重要な効果を上げています。
これらにより5年間で10億円以上の効果、とする一方、コストは1年当り200万円と大きな費用対効果を実現し、さらに将来のAI活用などの発展への一歩ともなっています。
旧式設備を低予算でIoT化
光半導体をウエハ(前工程)からパッケージング(後工程)まで一貫して製造している京都セミコンダクター(京都市)は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、シングルボードコンピュータ等を使用して旧式製造設備をIoT 化した「スマートFAB」の運用を2020年12月4日より開始した、と発表しました。
同社は年間売上34億7,300万円(2019年3月期)という小規模の企業です。
ほぼリアルタイムで稼働データを収集
製品の製造時に用いられる要素技術は、製品特性を決定付けるものであり、ノウハウも多く含まれています。そのため、それら基幹となる要素技術を使用する設備に関しては20~30 年使用し続けることも少なくありません。
今回、これら設備の一部を Raspberry Piと各種センサーを組み合わせて IoT 化し、ネットワーク上で稼働状況をモニターする運用を開始しました。
異常検知のメール発信を自動化するなどで、作業者がその場にいなくても装置の稼働状況を確認し、異常を早期に把握することができるシステムです。
基幹インフラからの情報と連携することで不具合の要因解析のスピード向上
本取り組みでは、純水精製及び各種ガスラインにもセンサーを取り付け、モニターを開始しました。
また、シーメンス社の産業用ゲートウェイとオープン IoT オペレーティングシステム MindSphere を導入し、センサーデータはネットワーク上のサーバへ自動的に記録されます。そのため、異常発生時やメンテナンス前後に状態が変化した際に当該設備の稼働状況のデータを洗い直すことができ、問題点の把握・対処に今まで熟練者の経験と知識に基づいていた「気づき」を経験の浅い作業者へも共有できるものと期待しています。
ダウンタイム70%削減 設備を5年延命
不具合の早期発見と稼働状況データの解析により、ダウンタイムを 70%削減することをめざしています。
これらのデータと各設備からの情報を解析・統合することにより、これまで見えていなかった不具合の要因分析、改善のスピード向上や、故障予知等に向けたデータ蓄積も可能となります。
こういった取り組みにより旧式設備を5年以上延命でき、設備投資抑制につながり、さらにはサステナビリティ方針の重要項目である、環境保全への配慮や事業の安全性確保にもつながります。
費用は年200万円、効果は5年で10億円以上
システム全体の投資金額は年間 200 万円程度で、稼働状況をほぼリアルタイムにクラウドからモニターすることが可能となり、機器メンテナンスの効率向上や製品品質の向上を図ります。
設備投資抑制により5 年で10億円相当の効果があり、さらに今後コスト低減やAI等の活用による故障予知機能や解析の自動化を行うことで、5 年で5億円の売上増 に匹敵する効果があると期待しています。
最後に
以上、低コストで大きな成果を期待している京都セミコンダクターの事例をご紹介しました。
ここでは安価なシングルボードコンピュータRaspberry Piや各種センサーを活用しています。
モニターしているのはガス流量、真空度、高周波出力などで、これらのセンサーを利用しています。
同様のことを実現するシステムとしては、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)がAIを活用して予知保全を可能にするシステムを、センサー、デバイス、サービスをセットにして安価に提供しています。センサーは振動や温度を取得するもので、監視対象としてはモーター、ファン、コンプレッサー等の回転機器を想定しています。
Amazon Monitron には、このセンサー以外にもAWS にデータを安全に転送するゲートウェイデバイス、機械学習を使用して機械の異常パターンのデータを分析する Amazon Monitron サービス、およびデバイスをセットアップし、機械の動作についてのレポートと機械の潜在的な障害についてのアラートを受け取るためのコンパニオンモバイルアプリが含まれています。
開発作業や ML の経験がなくても、機器の正常性のモニタリングを数分で開始でき、Amazon フルフィルメントセンターで機器をモニタリングするために使用されているのと同じテクノロジーを使用した予知保全が可能になります。
【参考記事】アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、AIを活用して予知保全を可能にするシステムを安価に提供
日本でも村田製作所とACCESSが同様の「スマートものづくり支援ツール “JIGlet” を2月19日より提供開始しています。こちらは
- 作業ランプの点灯・消灯を検知する「照度デバイス」
- ボタンを押して数をカウントする「ボタンデバイス」
- 任意の作業時に操作して時間を記録する「サイコロデバイス」
の3種類のデータ通信SIM内蔵センサーデバイスに加えてデータ収集と可視化用画面、通知用チャットアプリから構成されている、というものですが、例えばセンサーデバイス3台で始めるとすると、初年度は36万6000円、2年目以降は年間12万6000円と安価で提供されています。
【プレスリリース】村田製作所とACCESS、幅広い業界のDX化を推進するソリューション開発で協業
以上のように低価格ソリューションが提供されはじめていることもあり、今後同様の動きは日本国内はもちろん世界中で進むでしょう。
【会社発表】京セミスマート FAB が稼働開始